『法廷サスペンス、人間ドラマ、青春ストーリーの要素を併せ持つ傑作』
本書は、著者が法廷サスペンス三部作に続いて書いた、これまた文庫上・下巻合わせて933ページという大部の作品である。
「このミステリーがすごい!」では’03年海外編第4位にランクインしている。
プロローグで紹介される主人公のトニー・ロードは46才。今やサンフランシスコで成功を収めた辣腕弁護士である。
第1部では、彼の17才のハイスクール時代、故郷であるオハイオ州の小さな町での事件が追想される。ガールフレンドのアリスンが殺され、その嫌疑がかけられるのだ。町中から疑惑の目で見られるトニー少年の苦悩が、それだけでひとつの小説が成り立つくらいのボリュームで描かれる。
第2部は、2度と戻るまいと決意したトニーがかつての親友の弁護のために、親友の妻に懇願されて28年ぶりに帰郷し、彼が疑われている女子高生が死んだ事件の検証に費やされる。そこでトニーの脳裡には、少年時代、自分自身にふりかかった事件が嫌でもよみがえるのだった。
第3部は、本書後半の大部分を占める法廷場面である。トニーは絶対不利な裁判を「無罪とはっきり証明できないが、必ずしも有罪とは断定できない」というスタンスで貫き、水際立った弁護で強引に評決不能に持ち込もうとする。ここでのトニーの苦悩は、自分自身が親友の無罪を信じきれないまま、弁護という“仕事”をしなければならないことである。そのためにはかつて親しくしてくれた友人すらも利用し、友情を犠牲にするのである。
第4部に至って、<現在>の事件と<28年前>の事件の驚愕の真相が明らかになり、その悲劇的な結末に、心に深い傷を負ったトニーは愛する妻と息子の待つサンフランシスコへ帰る。
本書は、さすが円熟期に入ったパタースンの作品らしく、『罪の段階』、『子供の眼』でみせた手に汗握るスリリングな法廷場面と、『最後の審判』でみせた奥深い感動的な人間ドラマ、そして友情・恋愛問題に苦悩する青春ストーリーの要素をも併せ持つ、読み応え満点の傑作である。