『スリリングな展開は映画にも負けていない』
映画と原作の出来具合を比較することにあまり意味があるとは思わないが、今回は映画と比べつつおもしろく読めた。映画は明らかに原作の場面設定を借りている。登場人物の名前と、主人公がのっぴきならない状況に追い込まれるシチュエーションも借りている。しかし世界観は全く異なっている。映画の方は全編暴力的で極限状況の連続だが、原作は静かに、しかもある種ユートピア的に展開する。本書の前半は執拗に主人公の内面と社会状況のディティールが描かれ、後半は途中で読むのをやめられないスリリングな展開が待っている。はじめ主人公は諦念的で面倒なことには巻き込まれまいという抵抗を示すが、逃亡を続けていくうちに、どんどん自分の運命を受け入れ積極的に担おうとする。その点では映画のクライヴ・オーウェン演じる主人公と共通している。さらに明快な答えを用意していないのも映画と同じだが、映画とは全く違うラストが用意されている。小説らしいサスペンスに満ちた快作である。